長年の実績に基づく
エンタメ、スポーツ、IT等に関する
契約、著作権、特許、商標関連のコラム
タレント、俳優、アーティスト、アイドル、声優等(以下「タレント等」といいます)が事務所に所属する際、専属マネジメント契約・所属契約といったタイトルの契約書をタレント等と事務所との間で締結します。
こうしたタレント等が事務所に所属する際の契約内容の適正化を目的として、公正取引委員会が2025年9月30日に指針を発表しました。
この指針は全部で17あり、主に芸能事務所向けが多いですが、一部テレビ局等の放送局や、レコード会社向けの指針もあります。
この公正取引委員会が発表した指針が記載されている資料は、全部で37ページあり、なかなかこれらを全て読むというのは難しい部分もあろうかと存じますので、芸能事務所向け指針の内容を簡単に以下のとおりにまとめました。
1.専属期間
専属契約の期間を契約書(専属マネジメント契約書・所属契約書)において明確にすること、長すぎない契約期間とすること、契約期間を定めない場合はタレント等が退所を希望する場合はいつでも退所できるようにすること
2.期間延長請求権
芸能事務所のみの判断で契約を一方的に更新できる「期間延長請求権」を行使するには、予め契約書(専属マネジメント契約書・所属契約書)に定めておくこと、期間延長請求権を行使するのは1回に限る等の合理的な範囲とすること、延長する期間はタレント等の育成やプロモーションにかかった費用の回収に必要な期間の範囲とすること
3.退所後の活動禁止
タレント等が事務所を退所した後の一定期間の活動禁止義務(競業避止義務)を課さないこと、退所するタレント等に一定期間フリーとなることを求めないこと
4.移籍金
タレント等が退所する際に、そのタレント等の育成やプロモーション等にかかった費用のうち、未回収分の費用がないにも関わらず高額な金銭の支払いをタレント等に求めないこと、契約書(専属マネジメント契約書・所属契約書)に退所時の金銭支払いについての定めがなかったにも関わらず退所後にタレント等に金銭の支払いを要求しないこと
5.移籍や独立の妨害
タレント等の移籍や独立の妨害とみられるような次の行為をしないこと
・契約期間満了時に退所させない
・移籍や独立をするとその後芸能活動を一切できなくなると脅す
・退所するタレント等の悪評をメディア等に流す
・タレント等がマネージャーと共に移籍や独立することを妨げる
6.移籍や独立した後の妨害
タレント等が移籍や独立をした場合、そのタレント等が移籍や独立後に円滑に活動できるよう、活動を妨害するような言動をしないこと、移籍や独立したタレント等について、テレビ局等に起用しないよう忖度させること
7共同による移籍制限等
複数の芸能事務所が共同してタレント等の移籍を制限したりしないこと、移籍してくるタレント等に一定期間フリーとして活動することを求めないこと
8.タレント等が創作した成果物に関する権利の許諾
専属契約期間中にタレント等が創作した成果物の著作権等の権利が事務所に帰属するとしている場合、そのタレント等が退所した後にそのタレント等や移籍先の事務所等から利用許諾の申請があった場合は合理的な理由がない限り許諾すること
9.退所後の芸名・グループ名の使用制限
タレント等が退所した後に芸名やグループ名の使用を合理的な理由なく制限してはならないこと、契約書(専属マネジメント契約書・所属契約書)に芸名についての記載がないにもかかわらず退所後にタレント等に芸名の変更を求めたりしないこと
10.タレント等に支払う報酬
契約書(専属マネジメント契約書・所属契約書)において、タレント等に支払う報酬の額や歩合率(二次使用料、SNSやファンクラブ運営による売上、グッズ販売による売上等に基づく分配も含む)、タレント等に支払う報酬から差し引く経費等をできる限り明記すること、事務所が一方的に報酬を決めたりしないこと(タレント等と話し合って決めること)
11.仕事の強制
タレント等が望んでいない仕事を強制しないこと
12.契約内容の明確化
タレント等が所属する際の契約等は、契約書等の書面で行うようにすること、タレント等に十分に確認させた上で契約書に署名させること(契約書を手渡してその場ですぐに署名させるようなことはしないこと)
13.タレント等に対する仕事内容の明示
タレント等が仕事の内容を吟味できるよう予め仕事の内容をタレント等に明示すること
14.報酬の明細等の明示
歩合制により報酬をタレント等に支払う場合は、タレント等の業務ごとの売上金額やタレント等への分配額、報酬等から差し引く経費の内容及び金額等をタレント等に明示すること
これらすべてを遵守するというのは難しい部分もあろうかと思います。この公正取引委員会の指針は、必ず全て守らなければならないという性質のものではありませんが、これらの指針の内容から大きく逸脱するようなことを芸能事務所が行っていると、独占禁止法違反の問題が生じる場合がありますので、上記指針の内容から大きく逸脱する行為はできるだけ避けた方が良いかと存じます。
【関連するページ】
・専属マネジメント契約書
・VTuber・YouTuber等の所属契約書
・ライバー・インスタグラマー等の所属契約書
【関連するコラム】
・タレント等の芸名を使用する権利は誰のものなのか
・芸名が商標登録されているタレント等が退所した場合の取扱い
・タレント等と芸能事務所との所属契約の適切な契約期間は?
・タレント等がやめたいと申し出た場合でも契約期間を延長できる権利「期間延長請求権」
・タレント等が事務所との所属契約を途中でやめたい場合
・タレント等が退所した後の一定期間の活動禁止義務は有効なのか
・タレント等が退所する場合に事務所が移籍金等を求めることは可能か
・どのような行為がタレント等の移籍・独立の妨害とみなされるのか
・タレント等が創作した楽曲やイラスト等の著作物は誰の権利になるのか
・事務所がタレント等に支払う報酬や費用を契約書にどこまで記載すべきか
・タレント等は所属事務所から要請された仕事を断れるのか
・タレント等が事務所に所属する際の契約書に最低限記載すべきこと
・芸能事務所がタレント等に支払う報酬に関して明細書を発行する必要があるか
藤枝知財法務事務所
代表:藤枝秀幸(弁理士・行政書士)
2009年に当事務所を設立し、著作権等の知的財産権の専門家として、主にIT系、エンタメ・芸能・コンテンツ系のクライアント様やクリエイター様等から多数の契約書(英文契約書含む)作成・リーガルチェック業務のご依頼を頂いております。
また、補助金を活用した特許・商標・意匠登録対応も得意としており、契約×知財×補助金の広い視点でお客様をサポートさせて頂いております(2024年時点で事務所設立15年)。
【全国対応】
・契約書業務(契約書の作成代行、チェック修正、雛形提供)
・知的財産権登録(商標登録、特許登録、意匠登録)
・著作権業務(著作権登録、存在事実証明作成、各種相談)
【著作権ブログ】
著作権 侵害・違反を考える
【各契約書ページ】
著作権関連
- 専属マネジメント契約書
- 広告出演契約書
- イラストの著作権譲渡
- 出版(電子出版含む)契約書
- 業務委託契約書
- 翻訳出版
- 原盤制作譲渡
- デザイン使用契約
- 肖像権利用許諾書
- 原盤・楽曲使用許諾契約書
- 原作使用契約
- 芸能業務提携契約書
- LINEスタンプ制作業務委託契約書
- ゲーム音楽(BGM)制作契約
- 作詞・作曲・編曲依頼契約書
- 映画出演契約書
- イラスト制作依頼契約書
- 声優出演契約書
- VTuber・YouTuber所属契約書
- ライバー・インスタグラマー所属契約
- キャラクターライセンス契約書
- イベント出演契約書
- 舞台出演契約書
- PR案件等のプロモーション契約書
- 動画編集業務委託契約書
IT関連
- レベニューシェア契約書
- プログラム使用許諾
- サイト運営代行
- SEOコンサルティングサービス契約
- Webサービス利用規約
- ソフトウェア保守契約書
- スマホアプリ(iPhone・Android)開発
- 秘密保持契約(NDA)
- ウェブサイト制作
- システム共同開発契約書
- ASP(Saas)サービス利用契約書
- ASPサービス販売代理
- パッケージソフトウェア売買契約書
- 顧客紹介契約書
- クライアントサーバシステム提供
- OEM契約書
- システムエンジニアリングサービス契約書
- スマートフォンアプリ利用規約
- ウェブサイト・ドメイン譲渡
- クラウドサービス利用規約
- サーバの運用・保守契約書
- ソフトウェア販売代理契約書
- ソースコード使用許諾(開示)
- NFT制作依頼
- NFT利用規約
- SNS(インスタ等)運用代行契約書
商標登録はこちら
【メディア掲載実績】
・日本経済新聞 電子版
2011年5月30日、2011年5月31日
「開発費不要をうたうIT企業の思惑」「新事業モデル支える二つの契約形態」取材協力等
・日経コンピュータ2011年4月28日号
レベニューシェア契約に関する取材協力等
・2025年1月15日 All About『箱根駅伝に"異変"!?NIKEとadidasの「シューズ特許戦線」』執筆(Yahooニュースにも掲載)
他、週刊ポスト、FRIDAY、クローズアップ現代(NHK)等様々な媒体で契約書や知的財産権に関して取材協力をさせて頂いております(詳細はこちら)。

