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契約、著作権、特許、商標関連のコラム
タレント、俳優、アーティスト、アイドル、声優等(以下「タレント等」といいます)が事務所に所属する際、専属マネジメント契約・所属契約といったタイトルの契約書をタレント等と事務所との間で締結しますが、この契約の中で、タレント等が創作した楽曲、小説、イラスト、動画等の著作物はそのタレント等・事務所のどちらに著作権があるのでしょうか。
タレント等が創作することで発生する可能性のある著作物としては、次のようなものが考えられます。
・作詞、作曲、小説、イラスト、動画、X等のSNSに挙げる投稿内容、写真等
こうした著作物の著作権・著作隣接権が誰に帰属するのかということを今回解説致します。
【著作権・著作隣接権】
2025年9月30日に、タレント等とその所属事務所等が締結する契約の実態調査を行った上で、公正取引委員会は、タレント等とその所属事務所等が締結する契約の適正化のための指針を発表しましたが、この指針の中で、タレント等が創作した著作物の著作権がタレント等・事務所のどちらにあるのかについての実態調査が書かれております。
実態調査による、タレント等が取得・創作した楽曲、小説、イラスト、動画等の著作物に関する著作権・著作隣接権や、タレント等がテレビドラマ、映画、動画、ライブ、楽曲のレコーディング等に出演した場合の著作権・著作隣接権(演技等の実演によって著作隣接権が発生し、また歌唱や演奏によっても著作隣接権が発生します)は、タレント等とその所属事務所との契約において、事務所に帰属させるとする形が60%とのことでした。
私としては、少々以外といいますか、もう少し事務所に帰属させる割合が多いものかと思っておりました。実際に私が関わっているものや見てきたものでは、上記の著作権・著作隣接権を事務所に帰属させる形がかなり多かったので。
しかし、ミュージシャン等のアーティストですと権利の帰属のさせ方がタレントの場合とは少々異なってくるように思います。といいますのも、ミュージシャン等のアーティストが作詞・作曲したことにより発生する著作物の著作権は、基本的にはそのミュージシャンに残しつつ、音楽出版社等を通じてJASRACに信託するという形ですので、所属事務所がそれら作詞・作曲したことにより発生する著作物の著作権を持つことはあまりないように見受けます。
同様に、そうしたミュージシャン等のアーティストがレコーディングに参加する際に歌唱、演奏等の実演をすることで発生する著作隣接権は、レコード会社に帰属させる場合が多いため、やはり所属事務所に権利を帰属させるということはあまり見受けられません。
よって、ミュージシャン等のアーティスト系と、それ以外のタレント、アイドル、俳優等とは著作権・著作隣接権の帰属のさせ方が異なってくる場合が多いです。
公正取引委員会の実態調査では、タレント等とその所属事務所との契約において、事務所に著作権・著作隣接権を帰属させるとする形が60%とのことでしたが、残りの40%は、こうしたミュージシャン等のアーティスト系の場合だったのかもしれません。おそらくタレント、アイドル、俳優等ですと、60%よりも多い割合で事務所に著作権・著作隣接権を帰属させていることが多いように思います。
尚、公正取引委員会の指針としては、タレント等が取得・創作した楽曲、小説、イラスト、動画等の著作物に関する著作権・著作隣接権や、タレント等がテレビドラマ、映画、動画、ライブ、楽曲のレコーディング等に出演した場合の著作権・著作隣接権を、所属事務所に帰属させること自体は特に問題とはしておりません。
また、タレント等と事務所との契約(専属マネジメント契約・所属契約)の終了後もそれらの著作権・著作隣接権を事務所が持ち続けていることも特に問題はないとしております。
しかし、そうしたタレント等と事務所との契約(専属マネジメント契約・所属契約)の終了後もそれらの著作権・著作隣接権を事務所が持ち続ける場合は、退所後のタレント等や移籍先の事務所等からそれら著作物を利用したいという申し出があった場合は、合理的な理由がある場合を除いて許諾をすべきと指針の中で定めております。
但し、第三者からそれら著作物を利用したいという申し出があって、タレント等のイメージを損なうおそれがある等の合理的な理由があれば、許諾をしなくても良いとされています。
尚、著作隣接権について契約書で定めるのが漏れている場合を見受けることがありますので、タレント等の演技等の実演によって発生する著作隣接権や、歌唱や演奏によって発生する著作隣接権等についてもしっかりと契約書で誰に権利が帰属するのか等を定める必要がある点に注意が必要です。
【パブリシティ権・肖像権】
著作権とは別に、肖像権やパブリシティ権という権利についてもタレント等と事務所との間の契約(専属マネジメント契約・所属契約)において帰属を定めるような場合も見受けられます。
但し、肖像権は、そのタレント等本人の固有の権利であり譲渡できる権利ではありませんので、タレント等の肖像権を事務所に帰属させるというような定めは無効とみなされる可能性がありますので、そのような文言は契約書から削除すべきと考えます(タレント等の肖像を契約期間中、事務所が使用できるという使用許諾の形にすべきです)。
またパブリシティ権については、それを譲渡できるかどうかの考えは裁判でも分かれておりますが、歌手の愛内里菜さん(本名「垣内里佳子」)が、以前所属していた事務所「ギザアーティスト」との間で、事務所との契約終了後の芸名「愛内里菜」の使用を巡って行われた裁判(東京地判令和4年12月8日 令和3年(ワ)13043)では、「愛内里菜」という芸名に関するパブリシティ権(芸名によって生じる顧客吸引力を独占的に使用する権利)は、愛内里菜さんの歌手活動の結果として、愛内里菜さん本人にパブリシティ権が認められると判断されています。
愛内里菜さんと以前所属していた事務所「ギザアーティスト」との間の契約書の中で、パブリシティ権は事務所「ギザアーティスト」に帰属するといった定めがあったにもかかわらず上記のような裁判所の判断となりましたので、パブリシティ権も基本的にはタレント等本人に固有の権利であり、契約期間中、事務所が使用できるという使用許諾の形にすべきと考えます。
よって、タレント等に関して発生する権利の取扱いとしては、タレント等のパブリシティ権と肖像権についてはタレント等本人に帰属させる形とし、タレント等が創作又は出演等したことにより発生した著作権・著作隣接権についてはタレント等の退所後も含めて事務所が保有することができる、と考えます。
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2011年5月30日、2011年5月31日
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・日経コンピュータ2011年4月28日号
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・2025年1月15日 All About『箱根駅伝に"異変"!?NIKEとadidasの「シューズ特許戦線」』執筆(Yahooニュースにも掲載)
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