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タレント、俳優、アーティスト、アイドル、声優等(以下「タレント等」といいます)が事務所に所属する際、専属マネジメント契約・所属契約といったタイトルの契約書をタレント等と事務所との間で締結しますが、この契約をタレント等から一方的にやめること・・・契約を終了させることはできるのでしょうか。
前回書いたコラム「タレント等が事務所に所属する際の契約は雇用契約なのか」の内容とも連動してくる部分があるのですが、まずは、2025年9月30日に公正取引委員会が発表した、タレント等とその所属事務所等が締結する契約の適正化のための指針をもとにこれを考えてみます。
【公正取引委員会の指針に基づく考え】
公正取引委員会の指針では、タレント等が事務所に所属する際の契約(専属マネジメント契約、所属契約等)において契約期間を定めていない場合は、「通例、両当事者による解除が可能であることを踏まえ、実演家が希望するタイミングで、実演家の退所を認めること」としております。
ここにいう「実演家」とは、タレント等を指しますが、契約期間の定めがない場合は、タレント等が希望すればいつでもやめてよいという内容にするべき、というのが公正取引委員会の指針内容です。
上記の「通例」というのが正直不明瞭な部分もあり、裁判例に基づくのか、法令に基づくのか何ら根拠を示していない点はあまりよろしくないのではと思います。この指針のその他の個所では基本的に裁判例等の根拠を示している個所が多いのに、ここだけ何ら根拠が示されておらず、単に「通例」とだけしているのは具体的な根拠がないからではと邪推されてしまう余地があります。
但し、いずれにせよ、公正取引委員会のスタンスとしては、タレント等が事務所に所属する際の契約(専属マネジメント契約、所属契約等)において契約期間を定めていない場合に、事務所が合意しない限り退所を認めないとするのは独占禁止法上問題となる、としておりますので、契約期間の定めがない場合は、タレント等がやめたいときにいつでもやめられるようにしなければならないと考えます。
尚、契約期間の定めがある場合・・・例えば1年契約で自動更新の形にしている場合等においては、タレント等がやめたいときにいつでもやめられるようにしなければならない、とは公正取引委員会は言っておらず、この場合は、基本的には契約期間中にタレント等がやめたいといってもすぐにはやめられない、という形になろうかと思います。
あまりにも長期間の契約期間ですとそれは問題になり得ますが、1年~2年契約といった妥当な契約期間の範疇でしたら、基本的にはタレント等も事務所もお互いに契約期間をきちんと守りましょう、ということになるのだと思います。
公正取引委員会の指針では上記のとおりですが、法令や裁判例に基づくとどうでしょうか。
【法令や裁判例に基づく考え】
この場合、タレント等が事務所に所属する際の契約(専属マネジメント契約・所属契約)が雇用契約(労働契約)にあたるのかどうか、タレント等が労働者といえるのかどうかがポイントになってきます。
前回書いたコラム「タレント等が事務所に所属する際の契約は雇用契約なのか」において、どういった場合にタレント等が事務所に所属する際の契約(専属マネジメント契約・所属契約)が雇用契約(労働契約)にあたるのか、タレント等が労働者といえるのか、について書いておりますので、それらの点については前回のコラムを見て頂ければと存じますが、タレント等が労働者といえる場合・・・すなわち労働基準法が適用できる場合は次のような取扱いになってきます。
・契約期間の定めがあろうがなかろうが基本的には、タレント等から自由に契約を終了させることができる。但し、契約期間の定めがあって1年以内に辞めるという場合に、契約をやめることにより事務所に損害が生じる場合は、その損害を賠償しなければならない点に注意が必要(労働基準法附則第137条)。
上記のように、タレント等が事務所に所属する際の契約(専属マネジメント契約・所属契約)が雇用契約(労働契約)にあたり、タレント等が労働者といえるのであれば、タレント等は基本的に自由に契約をやめて退所できるということになります。
まだ活動を始めたばかりで事務所との関係であまり立場が強くないタレント等ですと、事務所からの仕事依頼に対して諾否の自由があまりなく、タレント業務の内容やその遂行に対して、事務所から一方的な指揮命令を受ける立場になりやすいため、労働者とみなされる可能性が高くなってくると考えます。
よって、そのようなタレント等ですと、労働者とみなされ労働基準法が適用されて、基本的にはいつでも事務所との契約を終了させやすいといえます。
では、タレント等が事務所に所属する際の契約(専属マネジメント契約・所属契約)が雇用契約(労働契約)にあたらず、タレント等が労働者といえない場合はどうでしょうか。
これについては、タレントの小倉優子さんの裁判例(東京地判平成28年9月2日判時2355号)が参考になります。この裁判では、小倉優子さんが当時所属していた事務所の社長が脱税で有罪判決を受けたり、自分の意志にそぐわない仕事を勝手に受けてくることに不信感を抱いて、当時の所属事務所との所属契約を一方的に解除したことで争われたものです。
この裁判では、「本件タレント所属契約は、雇用、準委任又は請負などと類似する側面を有するものの、そのいずれとも異なる非定型契約の一種というべきである」とした上で、「本件タレントと所属事務所との契約は、雇用契約そのものではないから、期間の定めのある労働契約に関する労働基準法をそのまま適用することはできない」としました。
小倉優子さんは労働者ではないという判断になったのですが、「芸能活動は、単に使用者の指揮命令によって提供する労務と異なって、タレント自身の人格とも深く結びついた業務であり、タレントがそのような業務の一切を所属先に委ねるものである以上、タレント専属契約においては、当事者間の信頼関係が極めて重要な意味を持つものといわなければならない」としたうえで、事務所側に信頼関係を破壊する行為があったとしてタレント等から契約を解約できる、という判断でした。
この裁判に基づけば、ある程度人気があって事務所と比較的対等な立場で仕事ができるタレント等の労働者とみなされない場合においても、事務所側に信頼関係を破壊する行為があればタレント等から契約を終了させることができる、といえます。
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