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タレント等が事務所に所属する際の契約は雇用契約なのか

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タレント、俳優、アーティスト、アイドル、声優等(以下「タレント等」といいます)が事務所に所属する際、専属マネジメント契約・所属契約といったタイトルの契約書をタレント等と事務所との間で締結しますが、この契約は雇用契約(労働契約)にあたるのでしょうか。
 
私もクライアント様から、この質問を頂くことがございますし、クライアント様からのご依頼として、「タレント等との雇用契約書を作成してほしい」という内容でご連絡を頂くことがございます。
 
しかしながら、タレント等が事務所に所属する際の契約(専属マネジメント契約・所属契約)が雇用契約(労働契約)といえるかどうかは判断の難しい部分があり、タレント等との契約内容によって個別に判断していくものとなります。
 
 
尚、雇用契約(労働契約)であるという場合は、そのタレント等は労働者になりますので、以下のような保護が受けられます。
 
・労働基準法が適用されるため、残業代が発生する、不当解雇されることがない、最低賃金が保証される、といった形で保護される
・契約期間の定めがある場合は、契約開始から1年間が経過すればタレント等からの申し出により自由に契約を終了して退所することができる(労働基準法附則第137条)
 
よって、雇用契約(労働契約)である場合には、そのタレント等が労働者として上記のように保護されるため、タレント等にとって有利と言えます。他方、雇用契約(労働契約)でない場合は、上記のような保護がないため、タレント等にとって不利な場面も出てきます(残業代も発生せず、報酬は成果に対して支払われ、事務所を辞めたいと思っても簡単にやめることができない等)。
 
では、タレント等が事務所に所属する際の契約(専属マネジメント契約・所属契約)が雇用契約(労働契約)かどうかはどのように判断されるのでしょうか。
 

【厚生労働省の通達に基づく考え】

 
2025年9月30日に公正取引委員会が発表した、タレント等とその所属事務所等が締結する契約の適正化のための指針においてはこの点についての言及がないため、それよりも遡って昭和63年に旧労働省(現在の厚生労働省)が示した通達(昭和63年7月30日基収355号)に基づき判断するのが基本的な考え方になろうかと思います。
 
この通達では、以下のいずれかに該当する場合は、労働者に該当するとしています。
 

  1. タレント等の提供する歌唱・演技等が他人によって代替できるものであり、そのタレント等の個性が重要な要素となっていないこと
  2. タレント等に対する報酬が稼働時間に応じて定められているものであること
  3. 所属する事務所との関係で、タレント等が時間的に拘束されるものであること
  4. 契約形態が雇用契約であること

 
上記の判断基準に基づき、タレント等が労働者に該当するかどうかは、次の要素を総合的に判断して決定されると考えられます。
 

  1. 事務所からの仕事のオファーに対して、タレント等の判断で拒否できるかどうか
  2. タレント等が出演する際に、具体的に細かい指揮命令をプロダクションから受けているかどうか
  3. 時間的な拘束や場所的な拘束が強いかどうか
  4. タレント等の提供する歌唱・演技等が他人によって代替できるものであり、そのタレント等の個性が重要な要素となっていないかどうか
  5. タレント等に対する報酬が稼働時間に応じて定められているものであるかどうか
  6. タレント等に事業者性があるかどうか

 
タレント等に対する報酬は歩合制となっているものが割合としては多く、人気のあるタレント等はその個性が重要な要素となってくるため、上記の判断基準のうち、とりわけ1や2の要素が、タレント等が労働者に該当するかどうかの基準として割と重要と言えそうです。
 
では、裁判ではどのように判断されてきたのでしょうか。
 

【裁判例に基づくタレント等の労働者性】

 
タレントのセイン・カミュさんが出演料や事務所の移籍を巡ってかつて所属していた事務所と裁判になった事例(東京地判平成19年3月27日)では、以下を理由にセイン・カミュさんを労働者であると判断されました。
 
・事務所からの仕事依頼に対して、セイン・カミュさんに諾否の自由がなかった
・タレント業務の内容やその遂行に対して、事務所とセイン・カミュさんとの間に一方的な指揮命令関係があった
・セイン・カミュさんに支払われていた報酬は、定額の賃金であった
 
上記の判断に基づき、裁判では、セイン・カミュさんが労働者と認定され、セイン・カミュさんとかつて所属していた事務所との契約は雇用契約(労働契約)に該当するためセイン・カミュさんがかつて所属していた事務所との契約を一方的に解除したことは有効である・・・すなわち事務所を移籍しても問題はないという結果となりました。
 
続いては、タレントの小倉優子さんのケースです。
今は大学生としても活動されております小倉優子さんのケースでは、当時所属していた事務所の社長が脱税で有罪判決を受けたり、自分の意志にそぐわない仕事を勝手に受けてくることに不信感を抱いて、当時の所属事務所との所属契約を一方的に解除したことで裁判として争われました(東京地判平成28年9月2日判時2355号)。
 
この裁判では、「本件タレント所属契約は、雇用、準委任又は請負などと類似する側面を有するものの、そのいずれとも異なる非定型契約の一種というべきである」とした上で、「本件タレントと所属事務所との契約は、雇用契約そのものではないから、期間の定めのある労働契約に関する労働基準法をそのまま適用することはできない」としました。
 
結果として、小倉優子さんと事務所との契約は雇用契約(労働契約)ではないという判断でした。正直なところ、小倉優子さんと事務所との関係であったり業務遂行状況は、セイン・カミュさんとかつての所属事務所との関係に似ているような形ですので、小倉優子さんを労働者ではないとしたこの裁判例の考えには少々疑問もあるところではあります。
 
とはいえ、裁判例では上記のように、タレント等が事務所に所属する際の契約(専属マネジメント契約・所属契約)が雇用契約(労働契約)であるかどうかは、判断が分かれる場合もあるため、なかなかその判断が難しいといえます。
 
とはいえ、昭和63年に旧労働省(現在の厚生労働省)が示した通達(昭和63年7月30日基収355号)や、上記裁判例に基づけば、ある程度人気があって事務所と比較的対等な立場で仕事ができるタレント等については、労働者とみなされない可能性が高くなってくるといえます。
 
他方、まだ活動を始めたばかりで事務所との関係であまり立場が強くないタレント等ですと、労働者とみなされる可能性が高くなってくると言えるのではと考えます。
 
 

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藤枝秀幸

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2009年に当事務所を設立し、著作権等の知的財産権の専門家として、主にIT系、エンタメ・芸能・コンテンツ系のクライアント様やクリエイター様等から多数の契約書(英文契約書含む)作成・リーガルチェック業務のご依頼を頂いております。
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