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契約、著作権、特許、商標関連のコラム
アーティスト、アイドル、歌手、声優、ミュージシャン等(以下「アーティスト等」といいます)がCDを制作して販売するために、レコード会社と契約を締結する場合があります。レコード会社と契約を締結すると、そのアーティスト等のCDの販売や音楽配信はそのレコード会社を通じて行われることになります。
このレコード会社とアーティスト等との契約は、通常「専属実演家契約」という契約を取り交わすこととなり、この契約期間中、アーティスト等はそのレコード会社のためにのみCDの制作や音楽配信のために必要な歌唱・演奏等の実演の収録を行うこととなります。
そうした専属契約の対価として、レコード会社は毎月一定の固定金額をアーティスト等に支払いつつ、そのアーティスト等のCD販売や音楽配信の売上からアーティスト印税という報酬をアーティスト等に支払います。
この専属実演家契約の期間中は、アーティスト等は、そのレコード会社以外のレコード会社やレーベルのために、CDの制作や音楽配信のために必要な歌唱・演奏等の実演の収録を行ってはならないわけですが、専属実演家契約の中で、契約終了後も一定期間(1年間等)、他のレコード会社やレーベルのために、CDの制作や音楽配信のために必要な歌唱・演奏等の実演の収録を行ってはならないという「実演収録禁止条項」を盛り込むことがあります。
この実演収録禁止条項を盛り込むことは、法的に問題はないのでしょうか。
【公正取引委員会の指針に基づく考え】
公正取引委員会が、アーティスト等が事務所に所属する際の契約(専属マネジメント契約・所属契約)についての適正化のための指針を発表しましたが、この指針の中で、レコード会社との契約についての指針も盛り込まれています。
公正取引委員会の指針に書かれているレコード会社向けの内容ですが、まず実態調査の結果として、レコード会社との専属実演家契約において、上記のような契約終了後の一定期間、収録のための実演(CD制作や音楽配信を目的とする実演)を行うことを禁止する「実演収録禁止条項」が盛り込まれている場合が実際にあるとしています。
実際、私もこれまで見てきた専属実演家契約においても、一定数そうした「実演収録禁止条項」が盛り込まれている専属実演家契約を見てきました。特に、メジャーレコード会社との専属実演家契約ではよくこういった契約終了後の一定期間の「実演収録禁止条項」が入ってくることをよく見ます(インディーズ系ですとあまりこういった内容は入ってこない傾向があると見受けます)。
さて、こうしたレコード会社との契約終了後の一定期間の「実演収録禁止条項」が法的に問題がないかどうかですが、公正取引委員会は、必要かつ合理的に相当な範囲であれば許容しているようです。この必要かつ合理的に相当な範囲については、公正取引委員会が挙げている次の問題のない事例が参考になります。
・実演収録禁止条項を設けているが、単なるインタビュー等の音楽の実演を伴わないストリーミング配信は禁止の範囲から除外している
・契約終了時点の事情を考慮して実演収録禁止条項の範囲を必要かつ相当な範囲に限定している
上記を踏まえますと、CD・DVDの制作・販売や音楽配信のための実演収録の禁止のみに限定というようにすれば公正取引委員会としては許容する範囲となるのではと考えます。例えば、対談、インタビュー、コメント等の音楽を伴わない実演まで禁止しようとすると独占禁止法上の問題が生じる可能性が出てきます。
よって、レコード会社との契約を終了した後の一定期間の「実演収録禁止条項」は、CD・DVDの制作・販売や音楽配信のための実演収録の禁止のみに限定というように範囲を必要かつ相当な範囲に限定しつつ、「一定期間」長すぎない6ヶ月~1年程度の期間に留めるといった形にする必要があります。
尚、レコード会社との契約終了後のアーティストによる一切の活動を一定期間禁止するような、いわゆる競業避止義務については、公正取引委員会は、そのアーティスト等の取引・活動を阻害するものとしてアーティスト等が被る不利益は大きいとして、原則、競業避止義務を契約書で定めてはならないとしております。
また裁判例では、ヴィジュアル系バンドのメンバーが事務所と交わした契約書の中に、「タレント等は、契約終了後6ヶ月間、事務所の事前承諾なく、マネジメント契約等実演を目的とするいかなる契約も締結してはならない」という内容の文言が記載されていたことを巡り、裁判でその有効性が争われた事例(東京高判令和2年7月10日 令和元年(ラ)2075号)がありますが、仮に先行投資回収の必要性があったとしても、競業避止義務を設定するのではなくタレント等の活動により生じる利益を分配するなどの金銭的な解決が可能であるから、競業避止義務には何ら合理性はないと考えられるため、契約書に記載されている競合避止義務は公序良俗に違反し無効である、と裁判所は判断しました。
こうした裁判例や公正取引委員会の考えに基づきますと、アーティスト等がレコード会社との専属実演家契約を終了した後の一定期間の実演収録禁止を設ける場合は、禁止範囲をあまり広げすぎず、上記のようにCD・DVDの制作・販売や音楽配信のための実演収録の禁止のみに限定するといった必要な範囲におさめる必要があります。
あまり広すぎる禁止義務を課すと、公序良俗違反として、その禁止義務条項そのものが無効となってしまいますので、それでしたら上記のように必要な範囲に限定した有効な内容にしておいた方が望ましいと考えます。
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